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もう一つの「ウチヤマ少年漫画ワールド」

内山まもる」といえば、特撮ファンにとっては一連の円谷プロ特撮シリーズコミカライズ作家として特別な存在だと思いますが、それらの作品群と並行する形で描かれた少年野球漫画作品でも一時代を築いた作家ではないでしょうか。

内山少年野球漫画作品の中では長年に渡って学年誌やコロコロコミックで連載された「リトル巨人くん」が一番知名度が高い作品で、2005年には今は亡き英知出版から2分冊で過去の連載を集約した単行本が刊行されましたが、それ以外にもいくつかの忘れられない作品たちが存在します。









2005年発売の 「リトル巨人くん」単行本
ここではそんな魅力溢れる作品たちを私の持つ資料からご紹介しながら、内山まもる少年野球漫画の世界を振り返ってみたいと思います。〔各画像はクリックで拡大できます〕

あいつが泣くとき(冒険王1974夏休み大増刊)
これは結構珍らしい作品ではないかと思いますが、1974年8月、ちょうど「ひょうたん」連載開始と同時期に「冒険王」の夏休み増刊号で発表された読み切り作品。南中学3年の主人公二宮俊と転校してきた野球部の新キャプテン百谷(ひゃくたに)の対立と友情を描いています。絵柄は後年の作品とは随分違いますが、人物デッサンの確かさは随所で分かります。40ページ弱の小品ですが地味ながらしっかりとしたストーリーの作品。もっともこの時点で内山先生、円谷特撮系コミカライズでは既にかなりの実績がありますから当然といえば当然かも知れません。

冒険王夏休み大増刊号掲載の読み切り作品

「ひょうたん」と並んで内山野球漫画のスタートラインとも言える作品。二宮の折ったバットが百谷の腹に刺さってしまったり(ストーリー的にはこれが二宮を改心させるきっかけにはなるんですが…)と、あんまり後味は良くない気が(いやはや…)。ちなみに「ひょうたん」初期に登場していたツンツン頭でいかつい顔の驚木(おどろき)先生、この作品でも同名で登場しております。

イチダースの鉄ちゃん(別冊テレビランド1977〜1978)
1977年に徳間書店の別冊テレビランドで連載されていた作品。内山まもる作品の中でもかなりマイナーな部類ではないかと思いますが、時期的には内山作品が一番脂ののっていた1977年~1978年の連載ということで、絵柄は内山ペンタッチの冴えを存分に堪能することができます。本作品は「けっさく選1」としてテレビランド・コミックスから単行本1巻が発売されていました。
単行本(テレビランド・コミックス1978年1月刊行)

ペンの切れ味冴える扉絵の数々!

とにかく元気のカタマリみたいな主人公鉄ちゃん(高田鉄児)が魅力的。既に「ひょうたん」で完成していた主人公少年キャラが早速鉄ちゃんのキャラクターに応用されてます。とにかくこの時代の少年マンガではピカイチの洗練度で、的確でリアルなデッサンと合わせ、内山作品の大きな魅力となっています。ストーリーはちょっと教訓めいたというか、子供同士のちょっとした出来事が野球にからんで描かれるっていうパターンで、少年漫画の王道を行く作品として肩の力を抜いて楽しく読めます。

ひょうたん(冒険王1974〜1979)
内山少年野球漫画の代表作にしてオリジンともいえる作品。個人的には内山まもるの野球漫画というと、まずこの作品が頭に浮かんでしまうのですが(いやはや…)。洗練されたキャラクター描写のいわゆる「内山少年キャラ」はこの作品の主人公、日高兵太(ひだか・ひょうた)によって完成され、これ以降、「リトル巨人くん」の滝巨人(たき・きよと)、「コン-バトラーV」の葵豹馬(あおい・ひょうま)、「ボーンフリー」のマー坊等、他の内山作品に登場して行くようになります。また脇を固めるキャラクターもキャプテン、ハンサム、一寸法師…とそれぞれキャラの立った名優揃いです。

この「ひょうたん」は掲載期間5年という長期連載で、主人公「日高兵太」の中学2年から卒業直前までの学園生活を描く、ちょっと大河ドラマ的色彩も持つ作品です。基本野球メインのストーリーではあるんですが、兵太たちの学園生活も丹念に描かれています。東郷先生と兵太の父との過去にまつわるエピソード等、ドラマ的にも間違いなく内山漫画シリーズのスプリングボードとなった作品でしょう。

連載は秋田書店の月間漫画雑誌「冒険王」で1974年8月号から開始され、1979年7月号まで続きました。連載が終了した1979年7月号は、丁度「冒険王」が連載漫画をオリジナル漫画からテレビアニメの漫画化作品にシフトさせて紙面のリニューアルを図った頃で、この後しばらくの間にこれまで連載されてきたオリジナル漫画が次々に終了しています(その後「冒険王」自体が「TVアニメマガジン」にリニューアルしてしまう訳ですが…)。

この作品はサンデーコミックスから全5巻で単行本化されましたが、未完となっており全編を読むことができません。更に当時の「冒険王」では往年の月間漫画誌の名残で、連載作品を別冊付録の形で本誌に付属させることが行われており、本誌だけを見ても全編が分からないという構成になっています。

単行本(サンデーコミックス1976年1月~1977年1月刊行)

ジャンボコミック(1977年4月特大号、1977年7月号、1977年8月号)
付録コミックは総集編ではなく、本誌の連載を切り出して別冊化したもの。
1977年8月号付録では当時の内山先生をカメラが訪問!


オリジナルコミック(1977年10月号 ) 冒険王コミック文庫(1978年1月特大号、1978年3月号)
つまり、現時点で「ひょうたん」を全編読むためには、「単行本全巻+単行本掲載以降1979年7月号までの冒険王本誌+付録コミック全種」が必要で、かなり難易度が高い作品と言えるでしょう。

【最終回】
「ひょうたん」は連載期間が長かったため連載中に読者の世代交代があったりして、連載当時それなりの知名度があった作品にも関わらず、物語の結末がどうなったかを知る人が案外少ない作品ではないでしょうか?

「冒険王」1979年7月号 表紙と「ひょうたん」最終回の扉絵、最終ページ
(ちなみに新連載の「キーマン」は何と「うしおそうじ」原作。
ちょっと今手元に本誌がないので、詳細な解説は控えますが、以前撮影しておいた最終回の扉絵と連載最終ページをご覧に入れます。最終回は確か病気(作品中で明確な病名が明かされたのかは分かりませんが、描写からすると心臓疾患なのでしょうか?)が進行し、実家に戻った田宮先生(物語の初期に明かされますが、実は田宮先生は「田宮コンツェルン」という財閥の御曹司なのです)を兵太たち武蔵中野球部の面々が見舞うような内容だったと思います。最後田宮先生は椅子に座ったままぐったりと目を閉じ、眠り込んだような感じになります。結局、そのままのカットで物語は終わってしまうのですが、これは読者的にかなりフラストレーションのたまる終わり方ですね(いやはや…)。

物語はここで第1部が終了と告知されています。第2部が開始されていればこの結末に対する内山先生の公式回答も描かれたと思いますが、残念ながら今日に至るまで第2部は開始されていませんのでこの絵の解釈は現在でも我々読者それぞれに委ねられているのです。

◆  ◆  ◆

さて、ほんの入り口ではありますが、内山少年野球マンガの世界をご紹介しました。どれも魅力的な作品達ではありますが円谷系特撮コミカライズに比べると仲々まとまって紹介される機会も少なく、特に「ひょうたん」は記憶に留めている方が多いにもかかわらず、殆ど情報がなくて全体像すらつかめないという状況が続いていますので、ここらで全話収録の単行本でも出てくれれば最高なのですが…







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