★★ 「小さなスーパーマン ガンバロン」第9話 ★★



1977年4月3日〜12月24日に全32話が放映された日本テレビのバロンシリーズ第3弾、『小さなスーパーマン ガンバロン』。最近でこそCSでの放映で再評価の動きはあるものの、つい2,3年前までは特撮ファンにさえ殆ど黙殺に近い扱いを受けていた不遇の作品である。前2作に比べると描く世界は小さくなり、少年ヒーローということで、エピソードも身近な世界で起きる事件が中心になっているが、その分視聴者である子供達には思い入れのしやすいヒーローではなかっただろうか?

本シリーズは他のバロンシリーズ同様日本テレビ系の音楽出版社、日本テレビ音楽(株)の渡辺一彦氏を中心に企画が作られたため、同時期の特撮番組と比較してテレビ局側の扱いも大きかったと記憶しているが、残念ながら主要スポンサー(株)ブルマァクの倒産(1977年10月31日)と、その予兆とも言える製作体制の激変(当初26話で終了予定だったものが、新キャラクターの開発に行き詰まったブルマァク側からの要請により超低予算体制で急遽延長されたと言われるが真偽は不明)で殆ど打ち切りに近い最終回となっているのは残念だ。

ドラマ的には、実質的なメインライターである長坂秀佳氏のカラーが活かされた、ペーソスあふれる人間ドラマや、バロンシリーズには欠かせない上原正三氏が担当したハードな展開のエピソード等、見所も多い。今回はシリーズ前半のエピソードである第9話、10話のシナリオが入手できたので、まず9話のシナリオをごらん頂きたいと思う。本エピソードは首を絞めるという直接的な表現が多く、そういった表現をなるべく避けていた「ガンバロン」の中では異色のエピソードである。脚本は両作共長坂秀佳氏が担当しており、テンポの良い会話のやり取り等、読んでも仲々楽しめるエピソードに仕上がっている。また会話に勢いを持たせるため、セリフの随所にカタカナ表記を割り込ませる等、興味深い表現も見られる。この時期の特撮テレビ番組のシナリオを実際目にできる機会というのは殆どないため、貴重な資料としてファンの方々に公開させて頂きたいと思う。

【シナリオ上の表記について】
本文が和文タイプで打たれた関係か、本シナリオ上の表記は促音がすべて大文字で表現されているため、本ページでの記載もそれに従った。個人的な感想では、「ガンバロン」の場合、実際に放映されたエピソードはシナリオにかなり忠実に作られている様だが、シナリオは実際に放送された作品とはシーン、セリフ等に相違がありうる事を予めご了承頂きたい。


シナリオは和文タイプ打ちされた原稿を印刷・製本したもの。


小さなスーパーマン ガンバロン
制作No.9 『見たぞ!ダイヤを吐く西洋人形』


制作 創英舎 読売広告社 日本テレビ

脚本:長坂秀佳 音楽:ミッキー吉野 特殊技術:大岡新一 監督:古澤憲吾
企画:渡辺一彦(日本テレビ音楽)内間 稔(読売広告社)
チーフプロデューサー:山本時雄(日本テレビ)
プロデューサー:高橋昭男(日本テレビ)大野 実(読売広告社)鈴木 清(創英舎)

制作スタッフ
プロデューサー補:安田邦宜 撮影:大岡新一 照明:松丸善明 操演:小笠原 亀
録音:成田 茂 編集:石川充久 助監督:大内健二 制作主任:神野 智
番組宣伝:鈴木利幸 キャラクターデザイン:札木幾夫(スタジオシップ)
ミニチュアデザイン:山口 修 監督助手:阿喜 繁 山本真一
撮影助手:宮下成治 佐久間公一 照明助手:高野和男 阿部高晴
美術助手:吉岡健一 高野敏幸 操演助手:岸浦秀一 装飾:
(未記入)
衣裳:佐藤君子 美粧:石塚俊美 効果:伊藤克巳 スチール:村田規子
記録:高橋千津子 編集助手:粟野俊雄 ネガ編集:久松七子 制作進行:原田昌樹
録音:整音スタジオ 効果:スワラプロ 現像所:東京現像 タイトル:デンフィルムエフェクト
フィルム合成:東宝特殊技術課 VTR合成:東洋ビデオセンター 操演:沼里企画
キャラクター造形:コスモプロ 特殊模型:郡司製作所 
ミニチュア製作:マーブリンブ
(マーブリング〔マーブリング・ファインアーツ〕の誤記か?)
スチール:テシコ 舞台装置:常舞台 車輌:昭和興業
協力:スタジオ日本現代企画 日照 チャイルド サイクルスポーツセンター
掲載誌:講談社 テレビマガジン たのしい幼稚園 おともだち


【「ガンバロン」放映フォーマット】
シナリオに掲載されていた放映時の番組フォーマットを当方で清書したもの。
フィルムは基本的にこのフォーマットに合わせて尺を編集され、納品されたと思われる。
(画像をクリックすると拡大できます)

ガンバロン'77
作詞:千家和也 作曲:ミッキー吉野 ゴダイゴ
友情のガンバロン
作詞:千家和也 作曲:ミッキー吉野 ゴダイゴ
この部分には和文タイプ打ちの歌詞が掲載されている。

<小さなスーパーマン>ガンバロン
製作No.9『見たぞ!ダイヤを吐く西洋人形』
脚本:長坂秀佳

登場人物
(演技者の後の数字は登場シーンナンバーを表す)
天道 輝(五年生):安藤一人(6,7,9,10,11,12,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,35)
ガンバロン:車 邦秀 久保勇一(29,30,32,33)

 デスク:古川清隆(9,10,11,12,14,20,26,29,35)
 アリス:河端未知(9,10,11,12,14,20,26,29,35)
ケンダマ:内海敏彦(9,10,11,12,14,20,26,29,35)
 チー子:西島久美(2,4,5,6,7,9,10,11,12,14,15,17,19,20,21,22,28,29,30,32,34,35)

磯間頑輔署長:深江章喜(7,12,18,28)
  西郷大造:石川 進 (9,10,18,35)
  西郷百合:原田真弓(10,20)
少年タイムス・インタビューアー・ロングちゃん(3)
(演:金月真美)

北原レミ(六年生)(8,10,12,35)
(演:小山麻美)

 ワルワル博士:天本英世(2,6,13,16)
怪人ドワルキン:牧野好年(30,33)
  〃  (声):飯塚昭三(17,19,21,22,28)
 番頭ワルベエ:花巻五郎(2,6,13,16)
   ムッシュ:黒部 進(23,31)
ゴエモン(声):中江真司(25)
  ナレーター:中江真司
     擬斗:車 邦秀

1.人通りのない道を−−

西洋人形が、コトコト歩いている。
そのかわいらしい顔が、かえつて不気味。

2.住宅街

チー子がスキップで来る。
ドキンと立ち止る。
道の真ン中を、コトコト歩いている西洋人形。

チー子「お人形が歩いてる?!」

人形、コトコトと角を曲る。
チー子、あわてて追つかける。
角から、そーツと覗く。

チー子「?!」

人形の姿はもうどこにもない。

チー子「気のせいよね、きつと」

チー子、ふと、路上に光るものを見付けて拾い上げる。
それは、キラキラと輝くネツクレス。

チー子「ま……ダイヤモンド!」

  ×    ×

はなれた物陰から、ヌツと覗くワルワル博士と番頭ワルベエ。

ワルワル博士「ヒヒヒ……!」

ワルベエ「ワルワル博士、うまく行つたようでゴワルな。好物のウメボシをどうぞ」

と梅干を差し出す。

3.街頭

少年タイムスインタビューアのロングちゃん、デスク、アリス、ケン玉が子供たちにインタビューしている。

ロングちゃん「ねえ君、昨夜はどんな夢を見た?」

ロングちゃん「それじや、今晩はどんなユメを見たい?」

(※盗み撮りで、なるべく面白い子供たちの答を拾つて下さい)

4.丘の上

チー子がネツクレスをかざしながらうつとりと来る。

チー子「ステキだわア……!」

5.チー子のイメージ

きれいな花畑で、正装のチー子と輝が優雅に踊る。
そのチー子の胸には、今のダイヤのネツクレスがサンゼンと光つている。

6.元の場所

チー子「(夢見るヒトミで)……」

ネツクレスをそツと首にわ(誤植は原文のまま)けようとする。
輝が来る。

輝「チー子?」

チー子「あ、テル兄ちやん、拾つちやつたのこれ」

輝「拾つたものは届けなきやダメだぞ」

チー子「でもその前にチヨツトだけ」

輝「ダメダメ。さ、一緒に行こう」

  ×    ×

覗いていたワルワル博士とワルベエ。

ワルワル博士「うーぬ!(と梅干を食い乍ら)テルめ、また……」

ワルベエ「せつかくのワルワルダイヤ作戦も水の泡でゴワルな」

ワルワル博士「ばかめ。こんなことでくじけるワルワル博士ではないわ。番頭ワルベエ!」

ワルベエ、さツとマントを着せかける。
ワルワル博士、ドワルキンになる。

ワルベエ「御立派でゴワル」

ドワルキン「わはは!ゆくぞ!」

7.警察署・署長室

輝とチー子が署長の前へ来ている。

磯間「何イ?……たかが落しモノくらいでわざわざこの忙しい署長の所へ来る奴があるか!」

輝「でも、何百万円もしそうなダイヤモンドなンです」

磯間「なに?!……み、見せろ!」

チー子、差し出す。

磯間「(見て)……ばツか。ただのガラス玉じやないか。(屑籠は(誤植は原文のまま)放り込み)わしや非常に忙しい。帰つた帰つた!」

8.西洋人形がコトコトと歩く

人形、ツと止ると、その内部で電子音。そして、口からキラリと光るものを吐き出す。
ダイヤのネツクレスを吐き出し終ると、人形、コトコトと去る。
女の子の足がやつて来て、立ち止まる。ネツクレスを拾い上げたのは、美人タイプの北原レミ(六年生)

レミ「きれい……!(そつと首にかけてみる)」

9.少年タイムス・編集バスの中

輝とデスクたちが総立ちになる。

輝「ええ?生徒会長の北原さんがスーパーで?!」

アリス「まさか!」

汗をふきふき弱りきつているのは大造。

大造「おれだつて信じたくないヨ、自分の姪がスーパーで万引きしたなンて。泣きたいよオレは」

輝「きつと何かの間違いだよ大将」

大造「そ、そうだヨな? そうだとも! あのヘソマガリ署長のデツチ上げにきまつてるンだ。(ネジリハチマキで)よオし、どうするか見てやがれ!」

10.警察署・署長室

磯間の取調べを受けているレミ。横に百合。
大造が、テルたちを連れてドナリ込んで来る。

大造「ヤイヤイヤイ、このヘソマガリ野郎!」

磯間「な、何だとこのキユーピー!」

大造「キユ、キユーピーとは何でえ!」

磯間「お前こそヘソマガリとは何だ、わしやイソマだ、イソマガンスケだ!」

大造「べらぼうめ!うちの姪ツ子を盗ツ人扱いするようなトンチキはな……」

百合「お父さん……残念だけど本当なのよ。レミちゃんがスーパーで何かとる所をあたし見てたの」

「ええ?!」とレミを見る輝たち。
レミの襟首にチラとあのネツクレスが見えるのに、輝だけが気付いて鋭く見る。

大造「ほ、ほんとなのかいレミちゃん」

レミ「……」

百合「何を聞いても答えてくれないの。困つちやつたわ、両親はいま旅行中だし」

大造「し、しかし、もしそうだとしてもよ、生徒会長をやつてるほどのレミのことだ。きつとわけが……」

磯間「わしもそう思つてわざわざこうして署長自ら調べとるンだ。だが訳なンか何もありやせん!」

輝「あは。署長、でもネ……」

磯間「うるさいツ!」

デスク「北原さん、おれたちにも理由、云えないかい?」

レミ「……(悲しそうに)ごめんなさい」

大造「レミは一体……つまり何をとつたンす?」

磯間「梅干だ」

一同「ウメボシ?!」

輝「(磯間に)どうして?」

磯間「そンなことわしが知るか! とにかくウメボシはウメボシだツ!」

机の上に、ドンと六個の梅干パツクを叩きつける。

11.公園の芝生

輝とデスク、アリス、チー子が考え込んでいる。

チー子「ウメボシ」

アリス「ウメボシ……」

デスク「ウメボシかア……」

チー子「あーあ、分ンないわ!」

ごろんとひつくり返る。

輝「あのネツクレスだ……きつと何かある」

デスク「ネツクレス?」

輝「北原さんがしていたンだよ。シヤツの下に隠れてよく見えなかつたけど」

アリス「気がつかなかつれ
(誤植は原文のまま)わ」

輝「チー子が今朝拾つたのと同じものだ」

チー子「ホント?」

輝「北原さん、もう家へ帰されたころだよね?ぼく行つて聞いて来るよ」

「オーイ!」ケン玉が自転車を飛ばして来る。

デスク「どうしたケン玉!」

ケン玉「大変だ!家へ返されたばかりの北原さんが、また掴まつちやつたンだ!」

輝「ええ?!」

アリス「またやつたの、ウメボシを!」

ケン玉「五十箱もとつて逃げたンだ。掴まえたときには一つも持つてなかつたんだって」

12.警察署・署長室

輝とデスクたちが走り込むと、レミが磯間に調べられている。

輝「署長、北原さんはきつと誰かに脅されてるンです。北原さんのしているそのネツクレス、調べてみて下さい」

レミ、はつとネツクレスを隠す。

磯間「ネツクレスも真犯人ももう判つた」

デスクたち「ええ?」

磯間、屑籠からさつき捨てた(チー子の拾つた)ネツクレスを出し、置く。

磯間「チー子には失敗したんで拾つたなンて嘘を云わせたのだろうが……テル、自首すれば少しは罪も軽くなるぞ」

輝「ええ?」

チー子「何のこと云つてンのよ!」

磯間「往生際の悪い奴だ。(レミに)さア、今云つたことをもう一度聞かせてくれ」

レミ「私、脅迫されたンです。ウメボシをとつて来いと云つたのは……テル君です」

輝「そ、そンな……!」

レミ「ネツクレスをやるからつて……云う通りにしないと、ひどい目にあわせるつて」

アリス「本当なのテル!」

レミ「ケイサツに云つたりしたら殺すつて」

輝「ど……どうしてそンなデタラメを……ハハ、北原さん、やだなアそンな冗談云つちやつて」

レミ、まだ何か云いたそうにしていたが、何も云えず、わツと泣き伏す。

デスク「テル……!」

ケン玉「どうしてそンなバカなことを!」

輝「ちがうよ。参ツたなあデスクたちまで……」

磯間「さア、ゆつくり話して貰うぞテル。(デスクたちに)お前たちに用はない。出て行けツ!」

13.ワルワル邸・一室

山のような梅干を、ワルワル博士がナイフとフオークでさもうまそうにムシヤムシヤと平らげている。

ワルワル博士「天道輝め、今度ばかりは手も足も出まい。ヒヒヒ、いい気味じや!」

ワルベエ「しかしワルワル博士、実にうまそうにお召し上がりになるでゴワルな」

ワルワル博士「ヒヒヒ、この世の中にこれほどうまいものがあろうか。ウメボシこそは若さの秘訣じや。とくに子供に万引きさせたウメボシはうまい」

ワルベエ、博士があまりにうまそうに食べるので、自分も大きなやつをパクリ。

ワルベエ「……(顔がネジ曲がる)」

14.少年タイムス・編集バスの中

チー子「北原さんたち、ウソ云つてるのよ!テル兄ちやんが悪いことする訳ないわ!」

アリス「私たちだつて信じたいわよ」

デスク「でもなア……北原さんはどうしてあんな嘘を……」

チー子「(カツと)みンな、何てツメタイの! いいわ、アタシもう頼まない!」

アリス「チー子……誰も信じてないなンて云つてないのよ」

チー子「だツたら何でウタガイをはらしてあげようとしないのさ!」

チー子、飛び出す。

15.チー子、涙を浮かべて走る!

チー子「テル兄ちやんが、テル兄ちやんがそンなことするもンか!」

16.物陰

見ているワルワル博士とワルベエ。

ワルワル博士「生意気なチー子め、番頭ワルベエ、もう一度チー子をワルワルダイヤ作戦にかけるぞ!」

ワルベエ「かしこまつてゴワル」

ワルワルバツクから出した西洋人形を置く。
人形、トコトコと歩きはじめる。

17.道

やつて来たチー子、「?!」と棒立ちになる。
西洋人形が歩いて来るのだ。

チー子「またお人形が……?!」

人形、口からダイヤのネツクレスをぞろりと出す。

チー子「?!」

人形、ネツクレスを残して去る。
チー子、ネツクレスを拾い上げる。

チー子「ネツクレスに何かあるつて、テル兄ちやんが云つてたわ」

ネツクレスを首にかけてみる。

チー子「……なンだ。何も起こらないじやない」

とろうとする。
すると、ネツクレスがぐぐツと輪を縮め、喉をシメる。

チー子「ああツ……とれないツ……」

ネツクレスの一つのダイヤがランプのようにまたたき、ドワルキンの笑声が響き渡る。

ドワルキンの声「わはは、ひつかかつたなチー子!」

チー子「ド……ドワルキンね!」

ドワルキンの声「その通り!チー子、このネツクレスは予の発明した首締めキカイだ」

チー子「首締めキカイ!」

ドワルキンの声「予の云うことをきかぬとお前は首を締められて死ぬ!誰かに喋ろうとしても死ぬ!」

チー子「北原さんたちもこうやつて脅かしたのね!」

ドワルキンの声「ダイヤの中には小型マイクと小型スピーカーが組込んである。お前が何を喋つても予にはツツヌケだ!」よいなチー子、予の命令をきかぬとお前は首をシメられて死ぬのだ!」

チー子、呆然。

ドワルキンの声「わはは、わはははは!」

18.警察署・署長室

大造が輝をかばいつつ、冷汗かいてペコペコ。

大造「どうも何ともハヤ……テルにはあツしから厳しく云いきかせますので、今日のところはひとつ……」

輝「あは、大将、そンなにペコペコしちやおかしいよ」

大造「ば……テル!お前も一緒に謝らんか!」

輝「だつてぼく、何も悪いことしてないもン」

磯間「コレだ……西郷さん、どうもあンたの感化を受けた子供はロクなのがおらんな」

大造「な、何だとこのヘソマガリ野郎!」

磯間「何?わしのヘソは曲つてなンかおらんぞ、何ならいまここで見るか!」

19.空地

ぼんやりと坐り込んでいるチー子。

輝「(来て)やア!」

チー子「テル兄ちやん……聞いて。あのネ!」

と今までのことが云いたいのだが、

チー子「……」

輝「(ハツと)チー子、そのネツクレス、どうしたンだ!」

チー子「(思いきつて)あのネ!」

ぐぐぐツ……チー子のネツクレスが締まつて行く。

チー子「!」

輝「そうか、判つたぞ!ドワルキンだな!」

ダイヤの一つが点滅して哄笑。

ドワルキンの声「その通りだテル!お前はこれから予の家来にならねばならん!」

輝「誰がお前の家来になンかなるもンか!」

ドワルキンの声「これでもかねテル!」

チー子のネツクレス、ギギツと締まる。

チー子「ああツ、テル兄ちやん苦しい!」

輝「ま、まつてくれドワルキン!云う通りにする。ネツクレスをゆるめてくれ」

ネツクレス、ジジジジとゆるむ。

ドワルキンの声「わはは!テル、これからお前が一ツでも予の命令にそむいたときは、チー子の命がなくなるということを忘れるな!まずデスクの所へ行くのだ。そして……!」

20.少年タイムス・編集バスの中

百合を混え、デスクたちの編集会議。

デスク「でもね百合さん、いくら何でもおれたちの少年タイムスにテルが悪者だなンて記事をのせることは……」

百合「デスク……ジヤーナリストつていうのはね、どんなに自分たちに辛いことでも、それが事実なら記事にするのが務めなのよ」

唇を噛むデスク、アリス、ケン玉。

百合「但し、その前に事実かどうかを確かめる。テルは無実だつて証拠を集めればいいのよ!」

ケン玉「よし……デスク、やろうぜ!」

そこへ輝とチー子が帰つて来る。

アリス「テル?!」

デスク「テル……お前の話をきこうじやないか」

輝「……」

辛そうにデスクを見てコブシを握りしめる。

チー子「(思わず)ヤメてテル兄ちやん!」

輝、いきなりデスクを殴り倒す。

百合「何をするのテル!」

輝、椅子を振り上げ叩きつけ、あたりのものをメチヤクチヤにする。

ケン玉「輝ツ!やめろツ!」

輝、ケン玉をツキ飛ばしてトビ出す。

デスク「あいつ……やつぱりおかしくなつたンだ」

チー子「ちがうわ……テル兄ちやんは悪くなンかない!」

輝の後を追つて飛び出す。

21.丘の上

チー子が来る。
ジツとくやし涙をこらえている輝の背が見える。

チー子「……」

そツと歩み寄る。

チー子「ごめんねテル兄ちやん……アタシのために、ごめんね!(涙があふれる)」

輝、明るい笑顔で振返る。

輝「はは、気にするなよチー子!」

チー子「テル兄ちやん……」

輝「ぼくのことなンか平気さ。それよりチー子、ネツクレスのこと誰かに喋つたりしちやダメだぞ!」

チー子「でも、それじやテル兄ちやんが!」

輝「喋つたらチー子が首を締められてしまう。いいね?誰にも喋らないつて約束してくれるね!」

チー子、涙で頷く。

輝「ネツクレスをはずす方法は、ぼくが何とか考えるよ!」

突然、ネツクレスがぐくツと締まつてドワルキンの嘆笑!

チー子「ああツ!」

ドワルキンの声「余計なことを考えるとチー子が苦しむだけだぞテル!」

輝「やめろ!やめてくれ!」

ネツクレス、ジジジツとゆるむ。

ドワルキンの声「ではお前に次の命令を伝える。これからすぐに神社へ行き、赤い印をつけた石垣の石の中へ隠してあるものを取り出せ」

22.神社の石垣

輝とチー子が来る。
輝、赤い印のついている石垣を動かす。
石はパカリとはずれ、その穴の中に何かが隠してある。
輝、そのものを取り出すとー それはピストル!

輝「ピストル!」

ドワルキンの声「そうだ、お前はそのピストルで、まず手はじめに明日朝八時、警察へ行つて磯間署長を射殺するのだ!」

ぎよツとなる輝とチー子。

輝「そ、そンなことぼくにはできない!」

ドワルキンの声「わはは!そうか。ではこうするまで!」

チー子のネツクレス、ぐぐツと締まる。

輝「ま、待つて!」

ネツクレス、止まる。

ドワルキンの声「よいなテル!明日の朝八時キツカリに署長を射つのだ。一秒遅れてもチー子の命はないぞ!」

輝「!……」

チー子「テ……テル兄ちやん……!」

輝「は……はは、心配するなよチー子。ぼくに任せとけツて!」

23.輝の家・表玄関(夕)

輝を迎えるムツシユ。

輝「(明るく)ただいまムツシユ!」

ムツシユ「お坊ちやま、何か心配ごとでも?」

輝「はツとなるが)どうして?はは、何もないよムツシユ」

24.同・コンピュータルーム(夜)

ポツンと輝がただ一人。
ピストルを前に置いてじツと考え込んでいる。

25.同・同(未明)

窓の外が白んできて……同じ姿勢の輝。

輝「ああ……ぼくは一体どうしたらいいンだ」

パラパラとランプが明滅し、ゴエモンが喋り出す。

ゴエモン「ソノクライノコトデ泣キゴトヲ云ウナ輝!」

輝「ゴエモン……」

ゴエモン「マダオマエニハヤルコトガアルハズダ!八時マデニハ時間ガアル。クヨクヨ考エテイルダケデハ何モ解決シナイゾ!ヤレルダケノコトハヤツテミルノダ!」

輝「ネツクレスははずせないンだよゴエモン!とろうとすると、ドワルキンが無線操縦のネツクレスでチー子の首を締めるンだ」

ゴエモン「一ツダケヒントヲヤロウ。ネツクレスヲ無線デ操ルニハ、ドコカニ無線室ガアルトイウコトダ。ソシテ、無線ガ届ク距離ニハ限界ガアルトイウコトダ!」

輝「そうか……! 分つたよゴエモン、つまり、ドワルキンの無線室を捜してぶツ壊すか、チー子を無線の届かない所まで連れて行つてしまえばいいンだね!」

26.少年タイムス・編集バスの前(朝)

輝が走つて来るとーー デスク、アリス、ケン玉がものものしく自転車で出動しようとしている所。

輝「ねえ、チー子はどこ!」

ケン玉「こツちが聞きたいよ。みんなで捜しに行く所だ」

輝「ええ?」

アリス「朝ごはんも食べないで、思いつめた顔してトビだしてつちやたのよ」

デスク「まさかテル、お前チー子にまで何かしたンじやないだろうな!」

輝「……」

デスク「昨日のことを少しでもすまないと思つてるンならお前も手伝え!」

デスクたち、去る。

輝「……チー子は一体どこへ……(はツと)もしかしたら!」

輝、走る!

27.走る! 走る輝(朝)

輝「八時になる! 早くしないと八時になる!」

28.警察署・署長室(朝)

壁の時計が八時三分前を示す!
制服に着替える磯間の前にチー子が来ている。

磯間「何を云つてるのかサッパリ分らん。一体何が云いたいンだ」

チー子「だから早くどツかへ逃げて!ここに居ると、テル兄ちやんが来ちやうのよ!」

磯間「だから!わしが何のためにテルから逃げなきやならんのかと訊いとるンだ!」

八時、二分前になる!

チー子「ああ……!いいわ、もうアタシ全部云つちやう!」

「云つちやダメだ!」輝が飛び込んで来る!

チー子「テル兄ちやん?!」

輝「チー子、何も云うな!云つたらどうなるか分つてる筈だぞ!」

チー子「でもアタシ、テル兄ちやんが人殺しするくらいならアタシ死んだ方がいい!」

輝「チー子……!」

チー子、ボロボロ涙を流して輝を瞶める。

磯間「何だ何だ二人とも!朝ツぱらから人の部屋へ乗り込んで来て安ツぽいメロドラマのようなことを……」

時計、八時一分前になる!

チー子「テル兄ちやんを止めて!署長を射つ気よ!」

磯間「な、何だつて!」

チー子「ドワルキンがそうしないとアタシを殺すツて!」

輝「ぼくはそンなことしない、喋るなチー子!」

チー子「(涙で)このネツクレスに仕掛けがあるの!テル兄ちやんは、アタシのために!」

輝「チー子ツ!」

ドワルキンの哄笑が起つて、チー子のネツクレスがギリギリと締りはじめる。

ドワルキンの声「とうとう喋つたなチー子!死ね!苦しみもがいて死ぬがいい!」

チー子「ああツ!(バツタリ倒れる)」

磯間「ど……どうなツとるンだテル!」

輝「署長、すみません!」

ボカンと当て身。

磯間「輝?!……何で、わしを……(気絶)」

輝「チー子、ぼくが無線の届かない所まで連れてつてやるからな……ガンバローン!」

輝、ガンバロンになる!

29.ガンバロンが気を失つたチー子を抱えて空を飛ぶ!

地上でこれを見上げるデスクたち。

デスク「あ、ガンバロンがチー子を!」

ガンバロン、ぐんぐん飛ぶ!

30.野を越え、山を越えて--!

まだ締めつけているチー子のネツクレス。

ガンバロン「おかしい!無線がこんなに遠くまで届くはずはないのに!」

ドワルキンの嘆笑が起る。
はツと振返ると、高速で後を追つて来るドワルキンの小型ジエツト機(イジワルーン)!

ドワルキン「わはは!どこまで逃げても無線は届くさ。無線装置はこのイジワルーンの中にあるのだからな!」

ガンバロン、何とか逃れようとするが、イジワルーンはどこまでもぴつたりとくつついて追う。

ガンバロン「あのイジワルーンを壊さなければダメか!でも斗つていたらチー子が!」

なおチー子の首を締めつけるネツクレス!

ガンバロン「そうだ、トブーンに頼もう!……コチヤコーイ・トブーン!」

31.無線を受け、ムツシユがトブーンを発進させる!

32.トブーンが行く!

イジワルーンを追い抜き、ガンバロンに並ぶ。
ガンバロン、チー子をトブーンにのせる。

ガンバロン「頼むぞトブーン!チー子を無線の届かない所まで連れていつてくれ!」

トブーン、ぎゅーんと去る。
ガンバロン、迫るイジワルーンを睨みつけ、

ガンバロン「さあ来いドワルキン、もう許さないぞ!」

33.ガンバロンとドワルキンの斗い!

ガンバロン、イジワルーンを下す。

ガンバロン「ガンバロン・フイニツシユ!」

イジワルーン、大爆発!

ドワルキン「うわアアアツ!」

ボロボロになつて大地に叩きつけられる。

34.トブーンの中

チー子の首のネツクレス、バラリとバラバラに散らばる。

35.少年タイムス・編集バスの中

輝を囲んでチー子、レミ、デスクたち。

デスク「ごめんなテル、謝る!」

アリス「私も疑つたりしてごめんなさい」

ケン玉「おれも!」

チー子「土下座しなきや許さないわ!」

輝「はは、いいンだよチー子。ぼく何とも思つてないンだから」

レミ「ほんとにありがとうテル君」

輝「お礼ならガンバロンに云つてよ。ぼくテレちやうよ」

大造と百合がケーキを持つて入つて来る。

輝「うわア!サンキユ大将!」

大造「おツと。テルはダメ」

輝「どうして?」

大造「食べる前に、お前も謝つて来なきやならない人がいるンじやねえのか?」

輝「ええ?」

回想フラツシユ-- 磯間に当て身をくらわせた輝のスチール。

輝「あ……いけない!」

わつと笑う一同で--

-- つづく --