The animated illusion

さて、深く静かに分析を続けるSFX-LABO.、今回は、世界の映像文化に確固たる地位を築きつつある"ジャパニメーション"、その映像表現を分析しましょう。先日、所長が深く感銘を受けたこの作品をテーマに、仮想世界でのリアリティとは何か、幾つかの象徴的なカットを見ながら、その秘密を探ってみたいと思います。果たしてSFX-LABO.は真相に迫れるか?

テキスト作品:勇者王ガオガイガー 第1話「勇者王誕生!」

絵コンテ:米たにヨシトモ 演出:谷口悟朗

このエピソードでは、従来のシリーズと比較しても、実写の感覚が大幅に取り入れられており、非常に興味深いカットが随所に見られます。

1


2


3

4

まず目に付くのが、各ロボットと周囲の風景との大きさの対比がしっかり統一されている事ですね。

はEI-02の大きさを描写するカットですが、前景に飛び交うカモメと漂う黒煙を配置しています。黒煙をゆっくりと水平移動させる事により、煙のスケール感を演出しています。

2〜4は新宿での対決シーンですが、どのカットでも、周囲のビルとロボットの身長の比率が変わっていません。これによって、ロボットの大きさを自然に認識する事ができます。また、かなり明確に実際の場所を参考にしている為、各カットでのビルの位置関係に矛盾がありません。

新宿に姿を現わすEI-02。高速走行形態に変形しています。この一連のカットも実写感覚を象徴するものですね。丁度車の屋根の位置に固定された視点、異変に気付いて逃げ出す警官、スケール感を持って描かれる白煙、吹き飛ばされる車両、パースを保ちつつ突入してくるロボット、ロボットと周囲の風景の比率…これらの要素がワンカットに収められています。

ギャレオンを振り向くEI-02。視点は丁度都庁の内部から見た様な位置に設定されています。背景とキャラクターも位置関係を考慮したパースの中に統一されています。カメラはEI-02の首の動きに合わせて左へパンし、肩越しにギャレオンを捉えます。このエピソードでは、従来にない程キャラクターと背景のパースの統一に注意が払われており、リアルな雰囲気を一層強めている様です。

ミサイルを避けるガイガー。かなりエキセントリックな視点にも関わらず、全体が統一されたパースと比率を保って描かれている為に、映像のリアリティは失われていません。で上昇するガイガーの背後にステルスガオーがフレームインする演出は秀逸です。画面内の各オブジェクトが動くのと同時に、背景もゆっくりと旋回し、目くるめく映像を創り出します。

EI-02の背後に回り込むガイガー。これも今回の演出手法を象徴するカットですね。カメラはEI-02を少し煽った位置から捉え、さりげなくEI-02の巨大感を演出します。当然背景の都庁も、パースを合わせて描かれています。首の旋回に合わせてカメラが左へパンすると、突っ込んでくるガイガーがフレームインしてきます。

 

特徴的なカット。左はEI-02に突っ込むブロークン・マグナム。何と、ここでも遠近感が付けられています。近景と遠景の移動スピードを変え、距離感を表現する訳ですね。マグナムのすぐ脇を霞めるビルは、殆ど流線で表現され、一瞬の内にフレームアウトします。アニメーションの空間表現もここまで来たかという、感慨深いカット。右は顔面を粉砕され、落下したEI-02。ちょっとしたカットですが、沸き上がる煙のゆっくりとした動きがスケール感を感じさせます。この様な地道なカットの積み重ねが現実感を生み出します。

このエピソードでの演出が語るもの。月並みな表現かも知れませんが、仮想の物体を画面上で現実感をもって描くには、すべからく自然の法則を意識する必要がある…といった処でしょうか?遠近感、距離感、巨大感、重量感…すべて実世界での様々な法則に乗っ取って(感覚的に)観るものに違和感を覚えさせない様にできれば、そこに自然とリアリティーが生まれてくる、と言うことでしょうか?導き出される結論は当り前の事かも知れません。しかし、この一見当り前とも思える事が、実は殆ど実行されていない事もまた、事実なのです。